研究概要 |
我々は、既に本研究で用いるための実験モデルを開発し、身体運動が認知機能を向上させること、更に、前頭前野の作用部位について詳細な検証をしてきた.これまで、認知機能3前頭前野における神経活動との関わりが深いことが報告されていた(Hillman et al., 2009)。しかし、前頭前野の何処で活動が増加するかはほとんど不明であった。脳は部位により機能が異なることから、認知機能を担う前頭前野の神経墓盤を解明するには、活動領域を明確にすることが必要条件となるが、運動がヒトの前頭前野のどの部位を活性化して認知機能を高めるかについては応募者の報告があるまで不明であった(Yanagisawa et al., 2010)。そこで、多チャンネル式近赤外分光分析装置(fNIRS : functional near infrared spectroscopy)を用いて、これらの不明点を明らかにした。今回は、一般成人に用いた実験プロトコルを用いて(Yanagisawa et al., 2010)、子どもに対する一過性の身体運動の効果を明らかにすることを目的とした。 本研究ではまず、子どもを被験者として、一過性の身体運動が認知機能の向上に関与するか、その背景に前頭前野における神経活動の変化が伴うのかを明らかにする(研究1)。次に、身体運動の条件を変えて、単純な走運動においても研究1と同様の結果が得られるか検証する(研究2)。発達障がい児に対して身体運動が認知機能および前頭前野の神経活動にポジティブな効果をもたらすか検証する(研究3)。 研究1に関して、一過性の運動が子どもの認知課題成績を向上させ、前頭前野背外側部の活動を向上させることが明らかになった。運動をした後に、子どもたちがパワーを発散したかのように静かに話を聞けるようになるのは、運動をすることで前頭前野背外側部の活動が亢進することによると考えられる。研究2に関して、単純な走運動では認知課題成績の向上はみられなかった。一方、楽しくサーキット運動を行うことによって認知課題成績が向上することが確認された。これらの結果から、子どもたちの認知機能を向上させるための運動条件として、単純な走運動ではなくサーキット運動のほうが効果的であることが明らかになった。 これらの結果から、幼児にとって身体運動とは体力向上だけでなく学力向上にも関わる可能性が示唆される。今後の教育カリキュラム、保育制度の基準を作るための目安となると考える。
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