本研究では、江戸時代初期に刊行された観世流謡本三系統のうち、これまでほとんど研究されてこなかった玉屋謡本の特質について検討し、いくつかの新見をえることができた。主な成果は、古活字玉屋本の本文をもとに整版玉屋本が刊行されたが、両者は同系統とはいえない差異があること、古活字玉屋本の詞章内容は光悦謡本というべき本であり、決して「玉屋本」ではないこと、これまで「玉屋本系」と捉えられていた謡本は卯月本周辺で書写・刊行された謡本と比較した上で、その性格を捉え直す必要があること、などが挙げられる。いずれも従来の観世流謡本刊本史の再考を迫る重要な指摘であると考えている。
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