研究概要 |
本年度は、統合失調症患者と健常者から成るペア22組から提供された死後脳組織を用いて、大脳皮質のパルブアルブミン陽性の介在ニューロン(PVニューロン)に特異的に発現するKCNS3電位依存性カリウムチャンネルサブユニットの発現を細胞レベルにおいて解析した。そのためには、放射性同位元素35SでラベルされたアンチセンスRNAプローブを用いたin situ hybridization(ISH)法を行った切片に乳剤を塗り、RNAプローブからの放射活性を銀粒子の集積として検出した。9野に相当する灰白質において、ニューロンをシステマティックかつランダムにサンプリングし、KCNS33 mRNA陽性細胞の密度および陽性細胞あたりのKCNS3mRNA発現量を統合失調症患者と健常者との間で比較した。 その結果、KCNS3 mRNA陽性細胞の密度は、患者では33%の減少があり、統計学的に優位だった(F1,19=30.0,P<0.001)。陽性細胞あたりのKCNS33 mRNA発現量も、患者では16%低下しており、統計学的に有意であった(F1, 19=16.9, P<0.004)。これらの結果より、統合失調症の大脳皮質ではKCNS3の遺伝子発現が多くPVニューロンで減少しており、一部では検出限界以下までに低下していることを明らかにした。 大脳皮質のPVニューロンはγ帯域(30-90Hz)で同期したニューロンの活動の形成を行い、情報処理に重要な役割を有する。KCNS3カリウムチャンネルサブユニットは、PVニューロンの電気生理学的特性を調節することでγオシレーションの形成に重要な役割を有すると考えられるので、今回我々が細胞レベルで同定したKCNS3の発現低下は、統合失調症における大脳皮質機能障害のメカニズムの一部としての意義のあるものである。
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