研究課題
若手研究(B)
近年、B型・C型肝炎の治療ではインターフェロン(IFN) が主に用いられて一定の効果を上げているが、その有害事象(副作用)が問題となっている。なかでも、傾眠、知覚異常、精神運動障害、幻覚などの精神症状の発現率が高く、特にうつ病はIFN投与中の約40%にみられ、重症の場合は自殺に至るケースも報告されている(IFN誘発性うつ病)。このことは精神科・内科医に共通の課題となっているが、その病態および有効な生物学的指標、治療法は未だに確立されていない状況である。本研究は、末梢血の神経栄養因子やサイトカインの変化や血小板の神経栄養因子遊離機能に着目した、新たな臨床的診断ツールの糸口を探るのが目的である。今年度は、内科通院中の慢性C型肝炎患者を対象に、IFN治療開始前、および投与中・投与後に採血を行った。今回は、神経栄養因子の中でもうつ病の病態と関連性が高いとされている血清BDNF濃度について、DNF蛋白特異的な抗体を用いたELISA法にて測定した。慢性C型肝炎の患者では,IFN療法によって血中BDNF濃度の低下が認められた。また、IFN治療開始4週後、8週後、と治療期間のが長くなるにつれて血中BDNF濃度の減少が大きくなることが分かった。今回の研究により、慢性C型肝炎患者におけるIFN療法は、血中のBDNF濃度を低下させることが明らかになった。「うつ病」でも同様に血中BDNF濃度低下を認めることが広く知られていることから、「IFN誘発性うつ病」と「うつ病」との間に、神経栄養因子の観点からは共通の基盤を有しているものと考えられる。我々はこれまでに、うつ病の病態においては血小板からのBDNF遊離変化が起こっていることを明らかにし、末梢BDNFと中枢BDNFが正の相関関係にある可能性を示唆してきた。IFN療法においても、これらの末梢血中の変化が中枢組織に影響を及ぼしている可能性も考えられた。
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