以上の研究から,20世紀前半フランスの新楽器製作を推進した文化的背景として,先端科学技術を用いた合理性の追求が存在したことが明らかになった.例えば,奏法の合理化は,演奏に伴う技術的条件を科学技術によって均質化し,獲得された時間をより高次の目的に使用するという目的を伴っており,この合理化のイデオロギーは,ベルトランやジヴレなど同時代の新楽器開発者たちが行ったインターフェース及び奏法の工夫といった,個々の事例に現れている.電子楽器開発は,技術の分野のみならず,音楽という文化的領域においてすら「進歩」(Gratia 1928)を可能にする,夢のような道具としての期待を受けていたのである.
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