研究概要 |
昨年度は、中胚葉と内胚葉の極性を決定する機構を解析した。研究開始以前に、ホヤを材料にして脊索動物の胚において、中胚葉と内胚葉の運命が互いに異なる細胞に分離される機構を解析した。その結果、中胚葉と内胚葉細胞の共通の母細胞の細胞核が、将来中胚葉を作る側に移動して、Not転写因子をコードするmRNAを放出し、中胚葉になる側の細胞質に局在させることが重要であることを見出していた。しかし、なぜ核が決まった方向に移動するのか調べた結果、PI3Kが中胚葉側に局在していることがわかった。昨年度は①PI3Kの局在が核の移動方向を決定する上で重要なのか、②PI3Kの局在はどのような過程を経て、どのようなメカニズムによって作られるのか、の2点に着目して解析した。①については、PI3Kの産物であるPtdIns(3,4,5)P3が中胚葉側に局在していることを明らかにした。PtdIns(3,4,5)P3を顕微注入により過剰に発現させた細胞では核の移動が異常になった。PI3Kを過剰に発現させた細胞ではPtdIns(3,4,5)P3が内胚葉側にも異所的に発現した。PtdIns(3,4,5)P3を分解する酵素は中胚葉側、内胚葉側の両方にほぼ均等に観察された。これらの結果から、PI3Kの局在が重要であることが強く示唆された。②については、PI3Kが局在するのが、受精後の卵細胞質再配置と同じ時期であることを見出した。また、卵細胞質再配置をドライブするアクチン細胞骨格の収縮と分単位で同期して局在することも観察された。アクチン細胞骨格の収縮を阻害した胚ではPI3Kの局在が生じなかった。PI3Kが局在した後に阻害してもPI3Kの局在に変化はなかった。微小管重合阻害剤で処理しても変化しなかった。これらの結果から、核移動方向決定に関わる機構の一端がわかってきた。
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