研究概要 |
EGFR遺伝子変異を有する肺癌はEGFRキナーゼ阻害剤(ゲフィチニブ、エルロチニブ)に高い感受性を有する。しかし、約1年以内の獲得耐性の出現はほぼ必発であり、その分子機序の理解や耐性の克服が課題である。 そこで我々は、以前の解析[Suda K, et al. Clin. Cancer Res. 2010]で用いたEGFR変異・KRAS変異・MET遺伝子コピー数についてのデータがそろっている6名のEGFRキナーゼ阻害剤獲得耐性症例(33病変)および以前の解析で作成したin vitro獲得耐性細胞株モデル(HCC827ER, HCC827EPR, HCC4006ER)について、さらなる解析をおこなった。まず、獲得耐性に関わる可能性が指摘されたCRKL分子について遺伝子コピー数を解析した。その結果、獲得耐性症例および細胞株モデルの両者において、CRKL遺伝子コピー数の増加は認めず、獲得耐性におけるCRKLの関与は低い可能性が示された。 一方、アポトーシス関連タンパクであるBIMの多型・遺伝子発現とEGFRキナーゼ阻害剤感受性との関連も近年報告され、注目を集めている。そこで我々は、多くの施設でも実施可能な免疫組織染色法によるBIMタンパク発現解析でもEGFRキナーゼ阻害剤感受性の予測が可能かを調べるため、上記とは別の30名のコホートを用いて検討をおこなった。その結果、BIM遺伝子多型を有する患者ではBIMタンパクの発現は低いものの、BIMタンパク発現とEGFRキナーゼ阻害剤の感受性には関連を認めなかった。 不可逆的EGFRキナーゼ阻害剤に対する獲得耐性株の樹立も試みたが、高濃度の薬剤下でも生存可能な耐性株の樹立には至っていない。今後は、他のEGFRキナーゼ阻害剤を用いて獲得耐性株の樹立を試みるとともに、症例を増やして上記分子異常の獲得耐性における役割をさらに検討することを計画している。
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