「鈴木-宮浦クロスカップリング(以下SMC)」による簡単な液晶(5CB)合成の実験方法の確立と、中高生でも取り組むことのできる教材開発を目指した。ノーベル賞受賞研究であるSMCを実際に行うことで、科学研究が如何に実社会に役立っているかを実感できる。具体的には、4-Bromobenzonitrileと4-Amylphenylboronic Acidを混合し、Pd(OAc)_2を触媒に合成を試みた。溶媒には水とアセトンを用いリガンドフリーで行った。40℃・常圧で、なおかつ有害な有機溶媒も必要とせず、比較的短時間(20~30分程)で、指導した高校生でも容易かつ安全に目標物質である5CBを得ることができた。反応容器中に黒色油状物質が浮遊してくるが、これをNMR分析したところ、目的物質(5CB)とアセトン、そして触媒が還元したPd^0の混合物であることがわかった。Pd^0の除去には、ジエチルエーテルを溶媒として金属スカベンジャー(QuadraSil-TA)を用いることで、容易に(15分程で)除去できることがわかった。溶媒のジエチルエーテルとアセトンは加熱により蒸発するが、家庭用の食品減圧保存容器を活用し、減圧沸騰させるのが有効であることがわかった。収率を正確に計算するところまではできなかったが、液晶は少量でも確認が容易なので、学生実験で定性的なものであれば有効に応用できそうである。4-Amylbenzonitrileと4-Bromophenylboronic AcidによるSMCも試みたが、固体と液体の違いや液性の条件から、収率があまりよくならないことがわかった。 実生活と縁の深い「液晶」は、高等学校の新しいカリキュラムで扱う「理科課題研究」、「総合的な学習の時間」などの探究テーマを考える際、取り扱う題材として興味深いものとなりうる。本研究が、化学研究が身近に感じられる学習として、探究活動に取り入れることのできる可能性を確認した。
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