コリンエステラーゼ拮抗作用により神経毒性を発揮する有機リン剤(OP)は農薬や殺虫剤、さらには化学兵器である神経ガスにも利用されており、これらによる自他殺、傷害、変死等の中毒事案は世界的にも無視できない問題となっている。一般にOPは加水分解されやすく不安定なため、残留環境や分析操作によっては元の分子構造を損ないかねない。そのため、事件・事故の直接的な原因物質の特定に現場検知もしくは本検査着手前の予備検査は非常に重要である。そこで本研究では、センシング材料として多様な分光特性を有するポルフィリンに着目し、OPを簡易的かつ迅速、さらには目視によって明瞭に検知可能なセンサーに構築することを目的とした。 各種官能基(カルボキシル基、スルホ基、アミノ基、水酸基)や中心鋸を有するポルフィリン誘導体をセンシング材料として、分光光度滴定法による紫外可視分光分析および蛍光発光分析を行った。 紫外可視分光分析では、OPの添加に伴い、いずれのポルフィリン誘導体においても化学量論的な平衡反応に由来するスペクトル変化が観測され、Soret帯は大きく長波長シフトした(溶液は桃色から緑色に変化)。この反応は非常に迅速であり、得られたスペクトル形状およびその吸光度変化は特異的なものであった。蛍光発光分析ではコンプレックス形成による消光反応が観測されたことから、本系は吸収・発光の両面からのセンシングが可能であることが明らかとなった。さらに、上記の分光分析に用いた溶液についてガスクロマトグラフィー質量分析を実施したところ、夾雑ピークなくOPのマススペクトルを得ることができ、予備検査に用いた試料溶液を機器分析にも共用できるという高い有用性も見出された。 本研究は検出感度や選択性等のセンシング能向上のため今後も継続していく予定である。
|