研究概要 |
失語症にみられる非流暢性発話1症候であるアナルトリーは,臨床的には構音の歪み,音節の分離,プロソディー障害を特徴とする。本研究では,脳変性疾患に伴う進行性非流暢性失語例および進行性運動性構音障害例と健常者の発話について音声分析を行い,アナルトリーの特徴を可視化することを試みた。 対象者は,変性疾患によるアナルトリー例3名,構音障害例2名(脊髄小脳変性症1名,パーキンソン病1名)健常者1名であった。音声データは,標準失語症検査の「単語の復唱」「文の復唱」における発話を録音し,音声分析ソフト(Sugi Speech Analyzer : (株)アニモ)にてデータ解析を行い,発話持続時間,ピッチ曲線,広帯域分析によるサウンドスペクトログラムの結果を検討した。本研究は倫理委員会で承認されており,患者には十分な説明を行い同意を得た上で実施した。 結果,アナルトリー例では健常例に比べ次のような特徴が得られた。まず,発話持続時間については,発話に要する時間の延長,音節数の増加に比例した発話時間の延長がみられた。また,子音における発話持続時間は,正構音で予測される発声時間とは異なり,一定の規則性が認められなかった。ピッチ曲線は変化に乏しく,高低差がほとんどみられず,アナルトリーの重症度が高くなるほど高低差はなくなり,低い位置で直線を描いた。広帯域分析の結果からは,重症度が高い例ほど前の音のフォルマント周波数からの変化が見えにくく,可変させるために時間を要することが明らかとなった。また,無声音の有声化も認められた。一方,進行性の運動性構音障害例では,構音の問題より,原疾患の違いによる変化が著しく,脊髄小脳変性症では音圧の急激な変化が,パーキンソン病では音圧の変化の乏しさと極端な低さという特徴が認められた。 今回の検討により,変性疾患に伴うアナルトリーを,発話持続時間や,ピッチ曲線の変化により特徴抽出が可能なこと、ならびに進行性運動性構音障害例では原因疾患による音圧の変化に注目する必要があることを明らかにした。プロフィール分析によりアナルトリー例の重症度による特徴の違いが示唆されたことから,今後は,軽度アナルトリー例を加えて評価ツールとしての感度と特異性を検討することが望まれる。
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