研究概要 |
東日本大震災でレスキューされた文化財を保管している施設にとって,被災資料自体の劣化リスクとともに,それらによる自館の収蔵環境や資料への影響は非常に重要な問題である。そこで被災資料の有無が保存環境に与える影響について調査した。 ■調査場所:被災した文化財施設の資料を大量に保管している東北歴史博物館の3室,A(被災資料保管,収蔵庫仕様),B(被災資料保管,講堂仕様),C(対照,通常資料保管,収蔵庫仕様=Aと同じ)。いずれも空調はないが夏季は除湿器を稼働させた。 ■調査項目(方法):温湿度(温湿度記録計),落下菌(φ9cmPDA培地,1時間暴露,28℃5日培養,コロニー計数法),におい強度(ニオイセンサー),TVOC(TVOCモニター),空気質(検知管[酢酸,アンモニア,硫化水素],GC-MS分析)。 ■結果:温湿度の変動幅は,AとCは小さいがBは大きかった。構造の影響が大きく,被災資料の有無による差異(以下,被災特性)は認められない。落下菌は,AとCは不検出か1個程度なのに対し,Bは数個から数十個だった。構造の影響が大きく,被災特性は認められない。TVOCはAとCはほぼ同程度なのに対しBは少なかった。構造の影響が大きく,被災特性は認められない。においはAの方がCよりわずかに多く,被災特性の可能性があるが,測定数が少なく精査が必要である。BはA,Cの半分以下であり,構造の違いと考えられる。検知管ではどの場所でもいずれの成分も検出されなかった。GC-MS分析ではCには存在せず,Aにのみ存在する成分がいくつか検出された(Bは非測定)。被災資料由来の可能性があると考えている。 ■まとめ:温湿度やカビリスクは被災資料の有無の影響はなく,室内環境の制御により防除可能である。 空気質は,TVOCモニターや検知管では影響評価は難しい。簡易的にはニオイセンサーは活用できる可能性がある。GC-MS分析は有用である。被災資料自体の劣化リスクの把握など今後の活用が期待される。
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