本研究では、従来看過されてきた長崎の民衆の対外認識とその形成経路を、彼らが書いた膨大な写本群「長崎旧記類」から抽出する。筆者は、同写本群を百点以上調査して四大別した。さらに、一定の編纂意図で書かれた史料には、物語化の萌芽があることを突きとめた。 史実の物語化が、民衆の対外認識の形成に与える影響は大きい。例えば「琉球」は滝沢馬琴の『椿説弓張月』の刊行・流布後に「日本」の一部と認識される。本研究では、民衆の視点で編纂された史料を用い、史実がいかに物語化するのか、それがどのように対外認識を形成するのかを分析する。また、物語に反映した民衆対外認識を解明し、その成果を現代の国際社会の相互理解に還元する。
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