ハリウッド映画やポピュラー音楽等をキッチュ(まがいもの)として批判する文化批判は、 20世紀中葉の勃興期の政治理論に影響を与えたが、今日の政治理論からはほぼ消滅している。いかにしてこの変化が生じたのか? このような問題意識のもと、本研究では、20世紀西洋においてキッチュ批判として影響力のあった、(1) アメリカの戦後文化・美術批評、(2) アドルノ等フランクフルト学派における「文化産業」批判、(3)イギリスの文化批評からニューレフトへ向かう動向、の三つの領域に注目し、それぞれのキッチュ批判が、当初政治理論と結びついていたものの、徐々に政治的な問題意識が失われていった経緯を明らかにする。
|