本研究は、阿仁マタギの社会でおこなわれている「マタギ勘定」という質的・量的に平等なクマ肉の分配について、その構造と社会的影響を明らかにするものである。本研究では、先行研究で方法が記述されるにとどまっていた「マタギ勘定」を、かれらの社会が市場経済に組み込まれた過程や、狩猟に関する政策、山の神に対する信仰などの観点を含めて捉え直す。そのうえで、文化人類学において蓄積のある贈与論や、狩猟採集社会の研究において重要な位置を占める食物分配の議論を批判的に検討しながら用いて分析し、その社会的な位置付けについて考察するとともに、対称的な人間関係に基づく食物分配についての理論的枠組みを構築することを目指す。
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