髪を角髪に結い、袍と袈裟を着け、柄香炉を捧げ持つ姿であらわされる童子形の聖徳太子像は、数ある肖像の中でも最も多く現存している。この図様は平安時代よりみられ、鎌倉時代以降、髪型や持物などの図様に多様な展開を見せた。その背景には諸寺院の信仰の多様化が挙げられ、新図様をもつ童子形太子像は、聖徳太子信仰の変遷を知る上で看過できない作例といえる。しかし、多くの作品は詳細な調査・分析不足で、図様や制作背景の検討がなされていない。 そこで本研究では、鎌倉時代に登場した新図様をもつ童子形太子像の作品を取り上げ、その図様の意味や制作背景を検討し、それらの蓄積をもとに鎌倉時代の聖徳太子信仰の様相を明らかにする。
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