クンデラ研究において、登場人物を通した作家の自伝的自己の異化と表象の議論は、作家が読者に対して行う作家像の構築についての議論に終始する傾向があった。 だが、自伝的な自己を虚構化することがクンデラの小説執筆における根本的な技法なのであれば、小説を執筆する上で、クンデラがいかに自己像を使用しているのかというプロセスの解明こそが肝要である。 申請者は生=自己像を芸術作品のように見做して理想化する登場人物たちの行為とクンデラの小説執筆の態度に対応関係を見出す。この「生の芸術化」という概念、また「生」の概念そのものの解明によって、自伝的自己を創作の源泉とするクンデラの執筆技法の実態を明らかにする。
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