研究課題
基盤研究(C)
本研究では、ヒト音声言語の生物学的起源を探ることを目的として、同じ霊長類に属するコモンマーモセットの音声コミュニケーションとその神経基盤に着目して研究を行った。進化の過程で、1.動物が持つ音声コミュニケーションに関わる神経基盤(生得的)に神経活動依存的な回路形成(後天的・学習)が加わり、2.それが遺伝的に固定化され最終的に生得的なヒト言語の神経基盤となったと仮定し、主に1.の検証を行った。具体的には、オペラント条件付けを利用して、コモンマーモセットに通常は発しない新規な音声を発するように強制的に学習させることにより、脳に強い負荷をかけ、そこで生じる変化を分子・細胞レベルで同定することを目的として実験を行った。完全に新規の音声を最初から発声させるのは非常に難しいと考えられたため、今年度は、既知の音声の中で発声頻度が高く、比較的容易に発声を誘引できるPhee callをもとに、新規の音声へと変化させる試みを行った。実験装置にマーモセットを馴致したうえで、Phee callを発した場合に給餌装置から報酬を与えることにより、Phee callと餌の関係を学習させた。その後、一定の周波数以上のPhee callを発した場合にのみ報酬を与えることで、高い周波数のPhee callを発するように訓練を行った。徐々に報酬を得られる周波数の設定を高く変化させていったところ、複数個体のPhee callで顕著な周波数の上昇が観察された。この結果から、マーモセットのPhee callの発声には一定の可塑性があり、自発的に周波数をコントロールする能力を持つ可能性が示唆された。