研究課題
基盤研究(C)
発症48時間以内に当院へ入院した大動脈解離で当科外来へ通院中またはその後精査入院した慢性期大動脈解離44例について血中TGFβ1濃度を測定した.総TGFβ1濃度は、平均1.56±0.43 ng/mlで、測定感度以下の症例はなかった.また、腹部大動脈瘤症例26例では平均1.67±0.83 ng/mlであった.対象例として高度動脈硬化を有する閉塞性動脈硬化症患者25例で同様の測定を行い、平均値1.33±0.44 ng/mlを得た.各群間の有意差は認められていないが、大動脈瘤疾患で高い傾向を示した.さらに、大動脈解離症例および腹部大動脈瘤症例の中には、総TGFβ1濃度が高度に上昇している例(2.00 ng/ml以上)が15%程度に見られ、これらは対照群の閉塞性動脈硬化症例では見られないレベルであった.一方、微小炎症反応の指標である高感度CRP値は、大動脈瘤疾患と閉塞性動脈硬化症患者とで差は見られなかった.TGFβ1の上昇が、大動脈疾患の発症や進展に何らかの関与を持つことが示唆される.大動脈解離症例の発症に関わる外的要因の検討するため、過去10年間の発症例を調査したところ、労作時の発症が安静時より多く (66 % vs 20 %)、日中の発症が夜間より多かった (62 % vs 36 %).月別発症件数の比較では秋冬季に多かった. 発症日と非発症日の気象情報を比較すると、1日平均海面気圧は1015.6 ± 6.7 hPa vs. 1013.7 ± 7.0 hPa (p < 0.01)で発症日に高く、1日平均気温は 7.6 ± 8.8 ℃ vs. 10.9 ± 9.5 ℃ (p < 0.01) で発症日に低値だった.大動脈解離は秋冬季の低温環境や高気圧環境で発症しやすく、これには寒冷による循環動態の変化と、高気圧等の好気象条件の日に身体活動性が高まることが関連していると考えられる.
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