研究実績の概要 |
始めに、健常な青年期(11-16歳)を対象に、親子関係と遺伝子多型がメンタルヘルスにどのように影響しているかを調べることを目的とし、親から承諾を得た74名から質問紙と口内粘膜細胞の採取を行った。質問紙:ユース・セルフ・レポート(Achanbach,1991,2001)を使用し、内向的・外向的問題、また 8つの尺度(気分の落ち込み・不安、 攻撃性、 思考、 注意力、 非行、 身体の問題、 ひきこもり、 社会性)を測定した。また、EMBU-C (Muris et al., 2003;Nishikawa, Hagglof, & Sundbom, 2010)を使用し、両親の心理的暖かみ、拒絶、過干渉、心配性の得点を測定した。本研究ではセロトニン運搬遺伝子(5HTTLPR)とCatechol-O-methyltransferase (COMT)をターゲット遺伝子として行動指標と質問紙を多面的に解析した。主な結果は、COMTのAG/GG群では父親や母親からの拒絶感が高いグループが低いグループに比べ、不安や落ち込み注意の問題などの得点が高く出た。第二の課題として、健常な子ども(7-16歳)を対象に、遺伝子多型(5-HTTLPR 等)と養育体験が表情識別能力と表情識別課題時の脳活動にどのように影響しているかを調べるためのデータ収集を行った。成人を対象とした予備実験では、両親の養育は5-HTTLPR遺伝子型を経由して右前頭葉の活性化に仲介の役割を果たすことが示された。幼少期の養育体験はある遺伝子型を有するグループで、曖昧な表情、つまり不確実な状況での神経活動に影響を与える可能性があることが示唆された。本研究の問題点は、研究協力をしてくれる社会集団を探すことが困難だったため、サンプル数において予定通りの規模でのデータ収集ができなかったことにある。養育や遺伝子が子どものメンタルヘルスや認知機能に与えている傾向は見られているので、サンプル数を増やせばさらなる結果が得られる。今年度は学会発表2件、論文発表が1編できたことから、おおむね順調に進展したと思われる。
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