研究課題
若手研究(B)
アトピー性皮膚炎は、病変部の紅斑や丘疹、痂皮と掻痒が特徴の皮膚疾患である。本疾患の病態には様々な細胞間接着因子やサイトカイン、ケモカイン、プロテアーゼが関わると考えられているが、その詳細な分子機序は不明な点が多い。本研究は、角層タンパク質の発現異常を質量分析法を用いて網羅的に解析し、角層バリア異常に関わる原因タンパク質、および、病勢を反映する分子を明らかにすることを目的とした。平成27年度は、質量分析法による角層タンパク質の同定数を改善するため、テープストリッピング法で採取した角層からのタンパク質抽出法、および、抽出したタンパク質由来のペプチドの分画法を検討した。さらに、これらの方法を用いて、患者病変部角層と健常人角層を用いた相対定量解析を行った。その結果、角層タンパク質の抽出方法は、界面活性剤を用いる方法が適し、ペプチドの分画法は、逆相HPLC法が適していることが明らかとなった。上記のタンパク質抽出法、および、HPLC分画法を用いて、患者病変部角層および健常人角層を用いた相対定量解析を行った結果、2385個のタンパク質が同定できた。現在、解析中であるため、最終的な結果ではないが、同定したタンパク質のうち、約700個のタンパク質が有意な発現差を示した。これらのタンパク質のいずれかが目的のタンパク質の可能性がある。平成25年度から平成26年度に実施した解析では、同定したタンパク質数は191個であったことから、本年度明らかにしたタンパク質抽出条件およびペプチド分画法は、角層タンパク質の解析に適していると考えられた。現在、より詳細な解析を行い、同定したタンパク質の信頼性、および、病勢との関連を検証している。その後、候補タンパク質に対する免疫学的手法を用いた検証を行うことで、アトピー性皮膚炎の病変部角層において病態の形成に関与するタンパク質が検討できるものと期待される。