本研究では、『古事記』の漢字万葉仮名交じり表記において、同じ音節に二種類以上の万葉仮名が使われている場合、それらに見られる使用傾向の違いの有無を調査した。 特にその万葉仮名の前にどのような文字が置かれているかという表記環境に注目し、調査した結果、一部ではあるが『古事記』の万葉仮名においても、『万葉集』などに見られたものと同じように、前に置かれた文字が仮名であるか訓字であるかによって、異なる字母を使用する傾向があることが明らかになった。これによって同じ音節をあらわすにも、字母によって仮名連鎖の中に使用されやすい字母と訓字と交用されやすい字母という、異なる性格があることが明らかになった。
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