研究概要 |
多発性硬化症 (multiple sclerosis; MS) と視神経脊髄炎 (neuromyelitis optica; NMO) は中枢神経系の炎症性脱髄疾患である. MSでは髄鞘が, NMOではアクアポリン4 (aquaporin 4; AQP4) 水チャネルを発現するアストロサイトが, 免疫分子の標的となり炎症性脱髄病巣を形成する. MSだけではなくNMOにおいても炎症性脱髄による臨床的再発と独立して, 認知機能障害が出現することが明らかにされている. MSの認知機能障害では大脳皮質内脱髄病変の関与が示唆されているが, NMOにおける認知機能障害の機序は十分に解明されていない.そこで「NMOとMSの認知機能障害とその背景にある神経変性病態の機序」について検討を行った. まず,病理学的検索を行った. 1) NMO大脳ではMSと異なり皮質内脱髄病変を認めなかった. 2) NMO髄膜にリンパ球浸潤を認めたが,MSで報告されているリンパ濾胞類似構造を認めなかった. 3) NMO大脳皮質II, III, VI層において神経細胞数が有意に減少していた. 4) II層に強い活性化ミクログリアの増加を認めた. 5) 大脳皮質I層のGFAP陽性アストロサイトのAQP4の発現が低下していた. さらに, スペクトラルドメイン光干渉断層計 (optical coherence tomography: OCT) を用いて, 網膜神経線維層の厚さを評価した. NMO, MS群ともに, 1)視神経炎の既往のある眼で有意に網膜神経線維層の減少を認め, 2) 臨床的に視神経炎の既往のない眼においても菲薄化している群が存在した. この結果は, 視神経炎の発作の有無にかかわらず, 神経変性病態を反映している可能性が示唆された.網膜神経線維層の測定は神経変性機構のバイオマーカーとして有用な可能性がある.
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