研究概要 |
研究目的 虐待された子どもが抱えるトラウマは深刻である。児童相談所では虐待被害児への支援を検討するためにトラウマ反応を評価する。日本の子ども用に標準化されたTSCC-Aという心理尺度は, 自己評定する子どものトラウマ反応を数値化し, 一般児童の規準値と比較できる点で, この目的に適ったアセスメントといえる。ただしトラウマ体験を評価する尺度は含まれておらず, 子どもによっては当該の虐待以外の体験を想起して評定してしまい, 虐待被害の影響を評価し損ねる場合もある。本研究では, TSCC・A評定直前に虐待体験の記憶を喚起する実験操作を通して, 評定すべきトラウマ体験を特定し, アセスメントの妥当性を向上させることが目的である。 研究方法 曝露されたトラウマ体験の量が大きければ症状として表れるトラウマ反応の量も大きくなるという知見(量―反応関係)に基づき, 改訂版虐待体験尺度(AEI-R)とTSCC-A間の相関係数を比較することで実験操作の効果を検証した。X県の児童相談所が関与した虐待被害児56名を無作為に, 面接過程で記憶喚起を行ってからTSCC-Aを評定させる群(実験群28名)と記憶喚起はせずにTSCC-Aを評定させる群(統制群28名)に分類した。その後, ケース記録に基づいて当該被害児の虐待体験をAEI-Rにより定量的に評定した。 研究成果 AEI-RとTSCC-Aの下位尺度を多変量解析で合成し, トラウマ体験とトラウマ反応の指標と定義した上で, 相関係数の同等性検定により群間の相関係数を比較した。統制群に比べて, 実験群の相関係数は有意に高く, トラウマ体験とトラウマ反応における量―反応関係は実験群でのみ確認された。虐待被害児のトラウマ反応を測定する際には, 直前に当該の記憶を喚起させることによりTSCC-Aの妥当性向上が可能であった。この実験結果から, 臨床実践で参照可能な知見を得られたものと結論した。
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