近年、北方史研究の進展により、北奥羽と北海道がそれぞれ独立して歴史的発展を遂げてきたのではなく、津軽海峡を隔てた緊密な交流の下で相互発展してきたことや、アイヌ民族の活動範囲が北海道にとどまらずサハリンやモンゴル、中国まで及んでいたこと、また和人とアイヌ民族の関係を巡っても必ずしも支配・従属関係や敵対的関係だけでは読み解けないことなど、東北・北海道地域の歴史に対する新たな見方が提示されている。本研究では、北方史研究の成果の教材化・授業開発に取り組み、生徒に北方世界の独自性や主体性を認識させ、「国民国家」的視点を相対化する歴史の見方・考え方を育成することを目的にする。 本研究では、北方史研究の中でも研究蓄積の厚い13~16世紀に焦点をあて、その成果の教材化・授業開発を進めていった。その際、特に青森県の十三湊を拠点に活動した津軽安藤氏、及び北海道・上ノ国町に所在する中世後期の城館・勝山館を中心的題材として、和人とアイヌの関係史を教材化していった。北方史研究を教材化するために北海道や青森県を中心とした各種博物館や中世期に十三湊と並ぶ港町であった九州の博多地区への調査を実施し、研究者からの聞き取り調査や資料の収集を行った。また、社会科教育学における研究成果を参考に効果的な学習形態についても分析・検討を行った。その際には、弘前大学教育学部教員からの助言を受けて、研究を進めた。 本研究の成果は、研究者の勤務校において、授業実践によって検証した。その結果、開発した授業が、東アジアスケールの歴史の見方・考え方を獲得させるとともに、アイヌ民族への一面的見方を変容させることに一定程度、有効に作用したことを確認することができた。
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