研究概要 |
本研究の目的は, 学習ポートフォリオシステム(以下PFシステム)に蓄積されたログデータを, 大学生の授業内外の学びを包括的に促進するための手がかりとして活用する方法論を提案することである. 近年では個々の学習者を中心として授業外の学びも一連の学びとして評価することで学習の形成的評価やキャリア教育につなげようとする試みが盛んである. そこで本研究では, 大学での授業と日常生活が, 大学生の学習目標を設定し達成度を記録する場としてのPFシステムでどのように関連付けられているかを評価することとした. 本研究では2つの分析を行った. 1つ目は, 大学生がPFシステムに書き込んだ学習目標と書き込み場所の関連性についての調査である. 静岡大学情報学部生のうち特にPFシステムの利用が多かった1年生約200名のデータを主に分析した結果, 学外の場所で記載された学習目標はボランティアやアルバイトといった大学外での生活に関係しており, 授業関係の学習目標の多くは大学内にて書き込まれていた. 2つ目は, PFシステムの大学内外での利用における事例分析である. PFシステムを恒常的に利用している就職活動中の大学生1名に対して1週間のPFシステム利用目的・回数等を尋ねるインタビューを行った. その結果, PFシステムへの書き込みは閲覧者からの反応が得られる場合に活発になり, 就職活動中は企業が閲覧・評価者としての役目を果たしていたことがわかった. 以上より, 大学内外での大学生の学び・生活を一連の学びとしてPFシステムにまとめるには, (1)相互に閲覧し刺激し合うコミュニティをPFシステム上に用意すること, (2)大学外からもPFシステムに書き込みを行うよう動機づけること, が重要だと言える. 逆に言えば, これら条件を満たすことが, PFシステムに有意味なログデータを蓄積する上で必要不可欠だと考えられるため, いかに大学生の日常にPFシステムを組み込むかの工夫が急がれていると言える.
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