研究目的 IFRSは既に欧州企業において適用されており、日本においても将来的適用が検討されている。IFRSは公正価値に力点を置いた会計基準であり、金融材のみならず投資不動産もその対象となることが注目されている。このように公正価値会計への移行は、企業財務に甚大な影響を与えるため、公正価値のあり方が厳しく問われてくる。投資不動産の評価は、外部の専門家が行う「鑑定人評価」と社内での「内部評価」の選択適用が認められている。「鑑定人評価」を採用した場合には、多額の社会的コストが生じ、それに見合う「有用性」が確保されている必要があるが、現状は十分検証されていない。本研究は、日本の賃貸等不動産会計基準の実施によって得られたデータに基づいて、鑑定人評価の有用性を検証することが主たる目的である。 研究方法 上記で述べた「有用性」を検証するために、以下の研究方法を用いる。 ①先行してIFRSが適用されている欧州企業の投資不動産の公正価値評価の実態を、企業のアニュアルレポートに基づき調査分析する。 ②賃貸等不動産会計基準の実施にかかる「鑑定人評価」採用企業と「内部評価」採用企業の財務データを、統計的手法(ロジット回帰分析等)に基づき分析・比較することにより、両者の違いを明らかにする。 ③上記に追加し、「鑑定人評価」、「内部評価」の時価開示と調査対象企業の短期的株価反応との関係を分析・比較することにより、投資家はどちらの評価方法に有用性を認めているのかどうかを明らかにする。 研究成果 上記の研究方法を適用した分析結果として、大企業(東証1部)では、含み益が大きいほど経営者は社外の不動産鑑定士による「鑑定人評価」を選択し、投資家も「鑑定人評価」に有用性を認めることが明らかになった。 これらの分析結果に基づき、公正価値会計時代の鑑定人の役割や貢献のあり方を検討する手がかりを得ることができた。
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