『目的』 生体機能を解析する上では、遺伝子レベルから蛋白質レベルまで様々なレベルで解析が行われているが、最近プロテオミクス(プロテオーム解析)、中でも蛋白質の翻訳後修飾解析の重要性が注目されている。蛋白質の大規模な効率的解析の有力な手法としての質量分析法を用い、翻訳後修飾解析を目標とする網羅的な「全アミノ酸配列」決定方法の確立を目指すための2D-HPLC/MS/MS法を用いた基礎的検討を行った。2D-HPLC方は、1次元目と2次元目のHPLC溶出条件を変えることで、2次元目の溶出ピーク当たりに含まれる成分数を減らすことができ、質量分析のイオン化に伴うイオンサプレッション効果の減少に有効である。 『方法』既知タンパク質のウシ血清アルブミン(bovine serum albumin : BSA)とβ-カゼインを同量混合したタンパク溶液を還元アルキル化、Trypsinで消化し、ペプチド混合液を作成した。作成したペプチド混合液を、分画せずにLC/MS/MS測定を行いそれぞれのタンパク質のシーケンスカバレージを求めた。次いで、同試料を、1次元目の塩基性移動相を用いた逆相HPLCで20分画し、3分画から17分画までの15分画をそれぞれLC/MS/MS測定を行い、測定データを結合しMASCOT検索を行いBSAとβ-カゼインのカバレージを求め、分画によるシーケンスカバレージを解析した。 『成果』 BSAとβ-カゼインの混合試料を分画せず測定した場合のそれぞれのカバレージは、BSAは59%、β-カゼインは8%であった。同試料を20分画し、各分画の測定データをマージした場合の各カバレージは、BSAは71%、β-カゼインは19%であった。BSAの場合は、分画によりHPLCの各ピークに含まれるペプチド数が減ったため、質量分析計のイオン化に伴うイオンサプレッション効果が低減出来シーケンスカバレージの上昇が見られたと想定出来る。β-カゼインの場合もシーケンスカバレージの上昇は認められたが、BSAほどではなくまだ条件検討が必要と思われる。今回の研究では、1次元目のHPLC分離条件の検討や分画数の検討を行った。分画数を増やすほどシーケンスカバレージが上昇するが、測定コストがかさむため無闇に分画数を増やすこともできなかった。今回の結果を踏まえ、1次元目のHPLC溶出条件や分画の間隔等の再検討、2次元目のHPLC溶出条件の検討など、これから更なるシーケンスカバレージの上昇を目指し研究を進めて行く予定である。
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