本研究は開発行為等により周囲の環境が変化し、乾燥化が進む中間湿原について、湿地生態系の基盤となる植生の動態を予測し、今後の希少な中間湿原の保全に役立つ知見を得ることを目的として行った。 1)過去 : シードバンク(埋土種子)を用いて潜在する植物種を把握する。2)現在 : 植生調査を実施し把握する。3)今後 : 種子トラップによる新たに侵入する植物種を把握する。これら3様を比較した。 調査地は周囲が開発され、孤立した森林内に残るヌマガヤが優占する中間湿原である。湿原内にはその他にミズゴケ、コハリスゲ、アオコウガイゼキショウ、モウセンゴケ、トキソウ、ハルリンドウ、ゴウソ、ツルカミカワスゲ等が生育し、ハンノキ、ノリウツギ、レンゲツツジの樹木が一部侵入する。 2013年5月に南北を基軸に10×10mの方形区を10箇所設置した。6月には1区画から5点を決め、深さ0~10cmと10~20cmの直径5cmの円柱状の土壌サンプルを採取し薄く撒いて養育した。発芽は0~10cmでは234個体、10~20cmでは29個体で0~10cmの発生が高かった。発芽した植物種ではヌマガヤが全体の約63%と一番多く、その他にアオコウガイゼキショウ、ミツカドシカクイ、コハリスゲ等の草本とニシキウツギ等の樹木が生育してきた。土壌採取後、50地点にシードトラップを設置して6月~11月(12月以降は積雪のため回収できなかった。)間に1カ月分ごと回収して分析した。種子はカンバ類(シラカンバ、ヤエガワカンバ)、ズミ、ハンノキ、ヌマガヤの湿原とその周辺の植物種で期間を通して樹木の種子が多かった。 以上のことから埋土種子の種ごとの発芽率の影響を考慮する必要はあるが、おそらく過去も現植生と同じヌマガヤ優占の中間湿原として維持されてきたと予測された。さらに湿原内に飛散する種子の状況から、今後乾燥化が進めば周辺から飛散する樹木種子が定着、発芽して周囲の樹林環境と同化すると予測された。
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