大型類人猿の心疾患は、海外で飼育されるゴリラの死亡原因の41%、チンパンジーで38%、オランウータンで20%を占める重大な疾患である。これらの大型類人猿はIUCNが定める絶滅危惧種I類であり、飼育集団の健全な維持管理は保全活動に直結する。一方、国内で飼育されている大型類人猿の心疾患についてほとんど把握できていないため、日常的に実施できる簡易検査法を確立する必要がある。そこで大型類人猿の脈波測定法の開発を目的として、千葉市動物公園において飼育されている3種を対象で心拍測定法を検討した。ゴリラ(3個体)、チンパンジー(3個体)、オランウータン(2個体)を対象に、オペラント条件付けを用いたハズバンダリートレーニングを1回に5~10分程度、各個体の寝室前で実施し、種ごとの反応や進捗状況を記録した。トレーニングでは、日常の健康管理、脈波測定に必要な「手を出したままの姿勢で静止する」状態を訓練した。3種間で、トレーニングの進捗状況や反応に種差が見られた。チンパンジーはトレーニングに積極的に参加した。これに対しゴリラは、日常の健康管理を目的としたトレーニングについてはある程度習得したが、測定のために姿勢を保つことや、対応者に手を保持されることを習得するのに多くの時間を要した。オランウータンは、トレーニングの習得に最も時間を要した。一方でトレーニングの実施は、動物と飼育者との親密な関係形成に役立った。本計画によって、3種の特性を把握した訓練についての知見を集積できた。訓練を継続することで、動物と訓練者にとってより安全で簡易的な心拍測定技術を構築する。
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