研究概要 |
上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子に活性型変異を有する肺腺癌に対して、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)が奏効する。しかし、奏効した症例もほぼ例外なく耐性を獲得することから、EGFR-TKIに対する耐性機構の解明が臨床的に重要な課題となっている。耐性機構の1つには、癌細胞自身や間質の線維芽細胞等が産生する肝細胞増殖因子(HGF)によるHGF-Metシグナル経路の活性化が関わっていることが知られている。またRorファミリーは細胞外領域にクリングルドメインを有する唯一の受容体型チロシンキナーゼであるが、我々(神戸大学大学院医学研究科細胞生理学分野)は諸種の癌におけるWnt5a-Rorを介するシグナルの恒常的活性化が癌の増悪過程と密接に関係することを見出している。さらに最近、Metの増幅が認められる肺腺癌や胃癌の細胞において、Ror1がMetによりリン酸化されることで細胞増殖に関与することが報告された。 本研究では、EGFR遺伝子変異を持つ代表的な培養肺腺癌細胞(HCC827, PC9等)を用いて、HGF-Metシグナルと(Wnt5a-) Ror1シグナルの相互作用による細胞増殖の制御機構とEGFR-TKI耐性化におけるそれらの役割を明らかにすることを目的とした。まず、siRNAによりRor1の発現を抑制した細胞株において、コントロール群と比較し、HGF・EGFR-TKI曝露下でこれらのシグナル伝達系が受ける影響や細胞の振る舞い(増殖率、細胞死)が受ける影響を生化学的・分子細胞生物学的手法により解析を行った。Ror1の発現の抑制にて、上記細胞株での細胞増殖は抑制されることは明らかとなった。次にその代表的な下流シグナルの解析を行ったが、増殖や生存に関与するシグナル(PI3K/Akt経路等)には影響がみられなかった。したがって、細胞増殖に関わるシグナル系やメカニズムをさらに探索してゆく予定である。
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