研究概要 |
TSODマウスは、オス特異的に肥満、糖尿病、高血糖、高インスリン血症などを自然発症する。このようなメタボリックシンドロームの諸症状を背景に、5-6ヶ月齢ごろからその肝臓ではヒトの非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と類似する組織学的変化を認め、さらに10ヶ月齢以降には高頻度で肝腫瘍が発生する。その中にはヒトの肝細胞癌(HCC)と組織形態が類似するものも見受けられるが、これまでTSODマウスの肝臓の遺伝子発現についてはほとんど調べられていない。今回、12ヶ月齢のTSODマウスから肝腫瘍組織(N=1)と非腫瘍肝組織(N=1)を採取し、各組織での遺伝子発現を網羅的に調べるためにDNAマイクロアレイ(Mouse Genome430 2.0 array、Affymetrix)を実施した。 肝腫瘍と非腫瘍肝組織の間で発現遺伝子を比較したところ、肝腫瘍で2倍以上の発現増加を示した遺伝子は、のべ5,729個あった。この中で最も高い値を示した遣伝子はアスパラギン合成酵素で、これはHCCで高発現しており、血清AFP値、腫瘍サイズ、微小脈管浸潤、TNM分類などと相関があるとの報告が近年なされている。その他には、HCCの診断マーカーであるGlypican 3やHeat Shock Protein 70なども含まれていた。またこれらの遺伝子についてmRNAレベルで比較してみても、その発現量は肝腫瘍で高発現していた。一方、2倍以下の発現低下を示した遺伝子は、のべ6,379個あった。 このようにTSODマウスの肝腫瘍では、ヒトHCCで発現異常がみられる遺伝子を含む多くの遺伝子発現に変動があることがわかった。TSODマウスは、メタボリックシンドロームを背景にNASHから肝腫瘍を自然発症するマウスとして、組織形態だけでなく発現遺伝子を解析する上でも有用な動物モデルとなり得る可能性があると考えられた。
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