今後わが国では造血幹細胞移植への移植ソースとして臍帯血の需要が増大すると予想されるが、移植する臍帯血の細胞数が少ないことが原因と考えられる生着不全の問題が臍帯血移植の一つの問題となっている。その問題を解決するため、間葉系幹細胞が本来持つ血液細胞増幅能を利用して臍帯血細胞を増幅し、臍帯血を造血幹細胞移植の安全な移植ソースとして使用することを目標として研究を行った。 申請者は間葉系幹細胞を副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone : PTH)で薬物刺激することで、間葉系幹細胞が持つ血液細胞増幅能がさらに増強されることを見出した。PTHで刺激した間葉系幹細胞との共培養により増幅されたCD34陽性血液細胞は、増幅前のCD34陽性血液細胞と同等の造血能を有していることを確認した。 さらに、PTHによる間葉系幹細胞が持つ血液細胞増幅能の増強のメカニズムについても詳細な解析を行い、PTHの刺激により間葉系幹細胞の接着因子であるカドヘリン-11の発現が増加し、カドヘリン-11を介して間葉系幹細胞とCD34陽性血液細胞の接着が増強されることを明らかにした。 また、PTHのヒトへの臨床応用を目的としてマウスでの基礎的検討を行い、骨髄移植モデルでもPTHが造血能回復促進作用を有していることを示し、少ない細胞数の移植ソースを用いた移植においてPTH投与が極めて有効であることを示した。また、PTHが持つ造血能回復促進作用の一部が間葉系幹細胞を介したものであることを示した。 申請者は上記の研究成果を第55回米国血液学会にて発表を行い、さらに科学雑誌「Stem Cells」に発表した。現在、造血幹細胞移植療法へのPTHの臨床応用を検討しており、PTHの投与量や投与方法についてさらに検討していく予定である。
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