本研究では、心腎貧血症候群発症機序に赤血球非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)代謝系が関わっているという仮説のもと、慢性腎臓病患者における赤血球中ADMA濃度および赤血球ADMA代謝動態を精査し、腎不全の進行や心血管疾患の合併リスクとの関係性を明らかにすることを目的とした。本年度は、保存期慢性腎不全(CKD)患者の血液を採取し、①腎性貧血に伴う赤血球減少がADMAの蓄積に与える影響、②CKD患者における赤血球のADMA取り込み代謝能の異常の有無の精査、赤血球中ADMAが全身のADMA蓄積の新たなバイオマーカーとなり得るか、③エリスロポエチン(EPO)投与が如何にこの系に作用するかの三点について検討することを計画した。結果、鉄剤非投与群においてCKD患者の赤血球ADMA濃度と赤血球数には有意な負の相関がみられ、赤血球ADMA濃度と腎性貧血の関係性があることが明らかとなった。さらに、赤血球ADMA濃度は血清鉄とも逆相関を示したことから、CKD患者において鉄代謝の不均衡を介して腎性貧血を増悪させる因子として知られるヘプシジンの血中濃度との関連性を検討したところ、赤血球ADMA濃度と血中ヘプシジン濃度には有意な正相関がみられた。したがって、赤血球ADMA濃度は鉄代謝と関連して腎性貧血の一因となり、EPO抵抗性を惹起している可能性も示唆された。また高赤血球ADMA群は、血中NT-proBNPが有意に高く、心腎貧血症候群を媒介する一因である可能性を示す結果が得られた。CKD患者赤血球のADMA取り込み能は、検討中であり、③のEPO投与の影響についても患者のエントリーに時間を要したため現在検討を進めながらエントリーを増やしている。得られた結果は、腎性貧血に対して赤血球ADMA低下という新たな治療標的を提示した。今後のさらなる検討によりEPO抵抗性を惹起しにくいより効果的な腎性貧血治療を可能にする創薬に繋がると考える。
|