本研究は、説話文学の生成に口承活動がどのように影響・関連していたのかを、具体的に明らかにするものである。とりわけ説話文学と関わりの深い口承活動には、中世寺院を中心に展開された大規模な唱導活動と、中世の貴族を中心に展開された歌学の継承活動がある。近年、資料発掘・開拓が目覚ましい唱導と歌学にまつわる口承資料を調査・整理し、その成果をもとに個別作品の分析を行うことで、説話文学の生成を新しい側面から明らかにすることを目指す。また、それらの成果を集積することで、既に存在する説話を受容し、変容させることで成立する説話文学という営為が、なぜ中世に隆盛したのかという根源的な問題を解明する手掛かりとしたい。
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