研究課題/領域番号 |
26310206
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 一部基金 |
応募区分 | 特設分野 |
研究分野 |
連携探索型数理科学
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
下川 航也 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60312633)
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研究分担者 |
手塚 育志 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (80155457)
出口 哲生 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (70227544)
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研究期間 (年度) |
2014-07-18 – 2019-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2017年度)
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配分額 *注記 |
13,260千円 (直接経費: 10,200千円、間接経費: 3,060千円)
2017年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2016年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2015年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2014年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
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キーワード | 高分子化合物 / トポロジー / 結び目 / 高分子化学 / 統計物理学 / 高分子 / グラフ / ESA-CF法 / ランダムウォーク / ランダムウオーク |
研究実績の概要 |
本共同研究では、数学者、高分子化学者、統計物理学者がそれぞれの分野で高分子の研究を行い、ボトムアップ的に連携を行い、高分子サイエンスに新たな視点を提供する。今年度は、8月に国際会議「Topology and graphs in polymer chemistry」を東京工業大学において開催した。 下川が担当する数学的側面では、引き続き高分子の数学的モデルである多環構造を持つグラフの命名法とその書き上げの研究を進めている。さらに結び目理論を用いて、多環状高分子の不斉などの研究を行っている。 手塚が担当する高分子化学では、まったく新しい数学的視点からの高分子構造設計原理を確立し、高分子化合物に特徴的な「やわらかいひも状」の「かたち」に基づく新たな特性・機能創出を進めている。手塚らはこれまで、独自の高分子合成手法(ESA-CF法)を創案し、最新の有機合成手法とも組み合わせて、様々な新奇多環状トポロジー高分子の合成を行ってきた。本研究では、トポロジー幾何学の視点から特に重要な「かたち」に焦点を絞り合成を行うとともに、トポロジー幾何学および計算機シミュレーションにより高分子特性の予測と実験的検証を進めている。 出口が担当する統計物理学的側面では、新しい理論的方法を用いて複雑なトポロジー的構造をもつ高分子の統計物理量を計算し、実験と比較できる理論的結果を導き、一方、スパコンを用いて計算時間が長くコストは高いが現実的な理論模型のシミュレーションを実行して結果を求め、新しい理論的方法による結果と比較し、その妥当性を確認している。具体的には、与えられた2点間をつなぐランダムウオークを高速に生成する新しいアルゴリズムを用いて、複雑な構造をもつ高分子に対して、慣性半径や拡散係数など様々な物理量を具体的に数値的に計算している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度の成果は次の通りである。 数学の分野では、K3,3とK4の空間グラフの表の作成を行った。また、数学的理論に基づく高分子命名法と、その構成法との関連の研究成果を得た。 高分子化学の分野では、Spiro-,Fused, Bridged 構造の組み合わせによる新奇ハイブリッド多環状高分子トポロジーに着目し、独自に開発した高分子反応プロセスであるESA-CF法と最近の有機合成化学の成果であるClick法と組み合わせて構築することに成功した(Macromolecules, 原著論文の項参照)。併せて、ESA-CF法の新たな展開をめざして、ペリレンイミド基を高密度に側鎖に導入した環状高分子を新規に設計・合成し、その薄膜電子特性に対するトポロジー効果を明らかにした(Macromolecules, 原著論文の項参照)。 統計物理学的側面では、東工大のスパコンであるツバメ計算機を用いて、排除体積模型の分子動力学シミュレーションにより2点間距離分布関数を求めたところ、短距離相関で興味深い結果を得た。これを確かめるため、与えられた2点間を結ぶランダムウオークを線形時間で高速生成する新しいアルゴリズムを用いて、シータ型高分子の2点相関関数や散乱関数などを数値的に求めた。排除体積がないガウス鎖の場合、解析的な表式をいくつかの物理量に対して厳密に導出でき、正しい結論を誘導出来る。さらに、シータ型高分子に対するモンテカルロ法アルゴリズムを新たに導き、排除体積がない場合に上記結果との一致を確かめた。新しいモンテカルロ法アルゴリズムを用いて、排除体積をもつシータ型高分子の物理量を求めた。 また、8月に国際会議を開催し、これらの成果を発表するとともに、高分子トポロジーなどの多くの研究者と活発な研究討論を行った。
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今後の研究の推進方策 |
数学的側面では、多環状高分子化合物の特性の数学的な特徴付けの研究を続ける。特に、高分子化合物の新しい形状と、その構成法の提案の研究を続ける。 高分子化学的側面では、前年度までに得られた成果をふまえて、ESA-CF法を適用した高分子の折りたたみによる多環状高分子異性体の選択的合成プロセスの検討を進める。また環状高分子の環拡大重合プロセスによる実用的合成法も検討する。さらに、多環状高分子異性体間の相互変換(異性化反応)についても検討し、これらの結果と、トポロジーに基づいた様々な「かたち」の高分子の体系的分類、および、異なる「かたち」相互の関係性(異性現象等)の抽出を合わせて、トポロジー理論に基づく新奇構造高分子合成プロセスの開発を進める。これにより、高分子ブレークスルー機能の創出が期待される。 統計物理学的側面では、次の目標は、今回導入された新しいモンテカルロ法アルゴリズムを用いて、排除体積が存在する場合に、トポロジー的に複雑な高分子の静的構造因子(散乱関数)を求めることが挙げられる。この物理量は2点間距離分布関数のフーリエ変換で与えられる。静的構造因子の特徴が明らかになれば、その情報を用いて、散乱実験の結果から溶液中の高分子のトポロジー的構造が判定できるようになる可能性が高い。また、さらに複雑なトポロジー的構造を持つ高分子の性質を調べることが考えられる。そして究極的な目標としては、東工大のつばめ計算機を使用して、トポロジー高分子の高分子メルトの性質を調べることが今後の重要課題である。
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次年度使用額の使用計画 |
手塚のベルギー出張は2017年5月に行う予定である。また、TSUBAMEでのシミュレーションの準備も進み、準備が完了次第計算を開始する予定である。
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