研究課題
基盤研究(C)
小脳は、運動の調整と教師あり学習の要である。プルキンエ細胞の抑制性出力が、小脳核から視床を介して、最終的にどのように大脳皮質運動野の活動を制御するのかについては未だに不明の点が多い。小脳核からの出力信号はニューロンの発火率の増減によって情報を表現する(発火率符号化)という見方が一般的だが、運動中にしばしば見られる小脳核ニューロンの発火休止は、スパイク列の時系列構造として「時間符号化」され、視床や大脳皮質にとって特別な意味を持つ可能性がある。本研究は、巨大EPSPを細胞外電極で検出した「S電位」というユニークな記録を手がかりに、小脳視床路シナプスの時間符号化を解読することを目指すものである。視床の投射ニューロンから傍細胞記録法により細胞外電極で活動電位(スパイク)を記録中に、振幅の小さな電位を記録した。これは50年ほど前に、ネコの外側膝状体において、同様に細胞外電極により発見された「S電位」に酷似している。外側膝状体のS電位は網膜神経節細胞由来のEPSPが記録されたものである。新たにS電位を記録した細胞の所在は視床運動核のVL核と髄板内核群のPC核/CL核であった。このうちVL核は駆動型入力として小脳核から巨大なグルタミン酸作動性軸索終末を受けているため、新たに見つかったS電位は小脳核由来のEPSPであると仮説を立てた。皮質脳波が徐波活動状態にあるときは、S電位は高頻度(>40 Hz)発火しながら数秒に一度0.5秒間ほど発火停止し、発火再開の際に必ず数発のEPSPに続いて、スパイクが連続するバースト発火が見られた。これに対し、皮質脳波が活性化状態にあるとき、S電位は持続的に高頻度発火し続け、およそ30%の確率でEPSPからスパイクを生じた。また、小脳核の投射ニューロンが、視床で観察したS 電位とよく似た脳状態依存性を示すことが確認され、S電位の小脳核由来仮説を支持した。
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The Journal of Neuroscience
巻: 0 号: 17 ページ: 0-0
10.1523/jneurosci.4662-14.2015
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