研究課題
基盤研究(C)
過去の研究では、インスリンの陽性変力作用に関して一致した結果が得られていない。本研究では、インスリンの心機能に及ぼす影響をPI3K/Akt経路の面から検討することを目的とした。初年度は単濃度インスリンの陽性変力作用について研究して、次年度ではインスリンの陽性変力作用を用量と時間の面から検討した。更に最終年度では、心筋内pAkt測定とPI3K/Akt阻害薬を用いることで、インスリンの陽性変力作用の用量依存性変化をPI3K/Akt経路の面から解明することを目的とした。実験方法は、ラットから摘出した心臓に大動脈・肺静脈・肺動脈へカニュレーションを行いLangendorff法で灌流を開始した。肺静脈から左心室内にバルーンカテーテルを挿入して左室圧dP/dt maxを求めた。肺動脈から流出する灌流量を冠流量とした。このモデルにおいて、インスリンの心機能に及ぼす影響を0.5、5.0、50Unit/Lの3濃度を用いて、用量依存性・継時的変化について検討した。実験の結果、インスリンを投与すると用量依存性に心機能は有意に上昇した。この陽性変力作用は低用量インスリンでは持続したが、高用量インスリンでは短時間で低下することが示された。更に最終年度の結果では、心筋内pAktは低用量インスリンでは増加し続けたが、高用量インスリンでは短時間で増加したのちに急速に低下することが判明した。また、PI3K/Akt経路の阻害薬であるWortmanninにより、インスリンの心筋内pAkt増加と陽変力作用は用量に関わらず抑制されることが示された。本研究から、心臓外科手術や心不全患者の麻酔において、強心薬としてインスリンを使用する新たな根拠が得られ、機序としてインスリンによるAktのリン酸化促進が示された。更に、高用量インスリンではAktのリン酸化が急速に進むことでタキフィラキシーを起こすことも解明された。
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