本研究は、明治・大正期の美術界全体との関連で近代書道史を再構成しようという試みである。現在、書は美術界の一領域を担っているかのようでいて、制作側の姿勢は実に多様で、混沌の様相を呈している。これは明治・大正期における美術界と書道界のせめぎ合いに由来する面が強いと考えられる。展覧会や教育の領域において制度としての「美術」が書を除外しながら構築されるなかで、書の世界でのさまざまな営みが、「美術」への距離感を変えながら複線で推移するさまを考察した。とりわけ「六朝書道(りくちょうしょどう)」を標榜する複数の勢力による運動に着目し、美術制度に対峙する書のありようを記述した。
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