本研究は、ウイルスを遺伝子の運搬体とした簡易で効率的なスギの形質改変法の開発を視野に入れ、スギから潜在ウイルスを探索することを目的としている。研究方法として、スギの針葉から抽出したRNAをもとにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用してウイルス由来の核酸を増幅することを予定していたが、その前に、植物がウイルスに感染したときにウイルスのRNAが分解されて生じる21~24塩基の長さのRNAを収集し、決定した塩基配列を統合してウイルスのゲノム配列を再構築するという未知ウイルスの探索法として近年、実施例が増えている方法を適用することにした。解析には、森林総合研究所の森林遺伝研究領域が収集したスギの低分子RNAの塩基配列をもとに塩基配列結合ソフトによって結合された配列情報を用いた。結合された塩基配列の長さは最長で400塩基であった。得られた塩基配列をアミノ酸配列に翻訳した後、公共の核酸・タンパク質データベース(NCBI)から取得したウイルス全般のアミノ酸配列データに対し相同性検索を行ったところ、植物ウイルスの逆転写酵素や熱ショックタンパク質と高い相同性(90%以上)を示す配列が見出された。この結果は、解析に供したスギにウイルスが含まれる可能性を示している。今後、低分子RNAの結合編集条件を変更して検索することと、実験植物への針葉汁液によるウイルスの検出実験を行ってスギに潜在ウイルスが存在するかどうかを確認することが必要と考えている。
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