研究実績の概要 |
ヒストン修飾やDNAメチル化はクロマチン構造を制御するエピジェネティックな情報として働く翻訳後修飾である。体細胞において、DNAメチル化パターンは細胞分裂を経て、次世代の細胞へと正確に受け継がれていく。このDNAの維持メチル化に関与するのが本研究の対象であるUHRF1である。UHRF1はヒストン修飾を認識するtandem Tudor domain (TTD), PHD fingerとヘミメチル化DNAを認識するSRA domain,ヒストンH3をユビキチン化するRING fingerを持つ。このことからUHRF1はエピジェネティックな現象を根本的に制御する重要な因子であると考えられている。本研究では、UHRF1のエピジェネティックマークの認識に関与する機能ドメイン (TTD-PHD-SRA)の高次構造の形成機構と変換機構を構造生物学的な観点から行い、UHRF1によるエピジェネティックな情報の統合、およびDNAメチル化維持の分子機構の解明を目指した。 本研究において以下のことを明らかにした。①, UHRF1のTTD-PHDとSRAは直接的に相互作用する。②,ヘミメチル化DNAやH3K9me3のエピジェネティックマークの認識によりTTD-PHDとSRAの直接的な相互作用が消失する。③, TTD-PHD-SRAはヘミメチル化DNAまたはH3K9me3単独への結合は弱いが、2つのエピジェネティックマークを同時に認識することにより、両者への結合が相乗的に強くなる。⑤, UHRF1のTTD-PHD-SRAの領域は、通常はヒストン修飾やメチル化DNAへの結合が抑制されたコンパクトな高次構造をとるが、2種類のエピジェネティックマークの同時認識によって高次構造が大きく開いた状態に変換する。 本研究成果によりUHRF1によるエピジェネティックマークの協調的な認識機構を解明できた。UHRF1はUBL domainとRING fingerを持つ。TTD-PHD-SRAによるエピジェネティックマークのコード認識がUHRF1のユビキチン化活性に与える影響を研究することにより、今後DNA維持メチル化の分子基盤を構築できると考える。
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