本研究の目的は、〈非理想理論〉に基づく倫理学・政治哲学において、新たに要請される正義論の方法論上の特質を、従来の〈理想理論〉との対比から解明することである。その成果として、1)非理想状況がもたらす諸制約の解明に従事し、思考実験の方法を非理想状況に適用する際の問題を特定した。2)個々の政策提案にあたっては、〈理想理論〉〈非理想理論〉双方の成果を踏まえた重層的な理論構成が必要であることを確認した。3)研究の総括として、〈非理想理論〉において要請される正義論の方法論上の特質を、理想化の水準設定、実行可能性問題への対処、正義と正統性の相克という観点から明らかにした。
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