研究実績の概要 |
同時に行われる2つの平行平板間乱流の直接数値シミュレーションにおいて,一方の一部の情報を他方に定期的に上書きコピーする「データ同化」の手法により,乱れエネルギーの逆カスケード機構を支配するモードの探索を試みた。ここで逆カスケード機構とは,エネルギーが壁から離れると同時に小さなスケールから大きなスケールへと輸送される機構を指し,壁乱流では普遍的に現れると考えられている。 最終年度に,異なるレイノルズ数に対する流れを用いて上記の同期シミュレーションを実施したところ,壁単位で流れ方向に75, スパン方向に25程度の波長以上のすべての変動成分をコピーしなければ,2つのシミュレーションは完全に同期しないことがわかった。この大きさは,壁付近の典型的な乱れの構造のスケールよりも小さく,粘性散逸が活発に起こるスケールである。散逸領域のスケールの乱れの振る舞いはそれよりも大きなスケールの乱れに従うという,一般的によく知られた結論しか得られず,壁乱流固有の性質を得るには至らなかった。 上のシミュレーションと並行して,エネルギー輸送の収支のスペクトルを求め,エネルギーの空間輸送とスケール間輸送がスケール空間においてどのように起こるのかを調査した。その結果,逆カスケード機構が起こると考えられている対数層では,エネルギー保有領域においては壁から離れる向きの空間的なエネルギーの輸送が起こることがわかったが,どの高さにおいてもエネルギー保有領域の大きなスケールから散逸領域の小さなスケールへとエネルギーが輸送されることもわかった。このことから,従来期待されているような小から大へのエネルギーの輸送は存在しないことが示唆される。 また,逆カスケード機構とは反対に,非常に大きなスケールでは対数層から壁のごく近傍へ向かうエネルギーの輸送が存在し,その輸送量はレイノルズ数とともに増加することも新たにわかった。
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