研究実績の概要 |
本研究の目的は、霊長類(マカクサル)下部側頭葉内の特定の神経回路が、再認記憶(recognition memory)の想起時に果たす役割を、遺伝学的手法を用いて神経回路機能を可逆的に操作することにより、明らかにすることである。本年度は以下の進捗が得られた。 1. 遺伝子導入マカクザルを用いた再認記憶を司る神経回路の可逆的阻害 4頭のマカクサル(ニホンザル)に対し、再認記憶として遅延非見本合わせ課題(Delayed Non Matching-to-Sample (DNMS) task, Squire and Zola-Morgan, 1991)の訓練を行なった。続いて、訓練済のマカクザルのうち3頭において、下部側頭葉(36野)にドキシサイクリン依存型テタヌストキシン発現システムを搭載したアデノ随伴ウイルスベクターを接種した。ドキシサイクリン投与下/非投与下において、サルの行動実験を実施し、神経回路の遮断効果を検討したところ、少なくとも1頭のサルにおいて課題正答率の可逆的低下が認められた。これにより下部側頭葉の神経回路が再認記憶において重要な役割を果たしていることが示唆された。 2. 短時間分解型破傷風毒素テタヌストキシンの開発 改良型破傷風毒素テタヌストキシン(Kinoshita et al., 2012)と改変型DHFR(以下DD)(Iwamoto et al., 2010)を結合させることで、短時間分解型テタヌストキシン(DD.EGFP.eTeNT.PEST)を開発した。これはトリメトプリム(Tmp)非存在下では数時間で分解されるものである。さらに、遺伝子発現をより厳密にするために、この短時間分解型テタヌストキシンをTet-on systemにて制御するシステムを開発した。これは、ドキシサイクリン(Dox)とトリメトプリム(Tmp)の二種の薬剤の存在下で、より厳密でかつ素早いテタヌストキシンの発現調節を可能にする次世代の可逆的神経回路遮断システムである。
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