研究実績の概要 |
Fra-1はヒト正常線維芽細胞に過剰発現させると足場非依存的増殖能を獲得すると報告される。我々は食道扁平上皮癌(ESCC)検体を用いた検討で、Fra-1高発現が独立した予後不良因子であることを報告した(Cancer.2011;118)。今回Fra-1に調節される制御遺伝子を同定し、それら遺伝子の臨床病理学的意義を検討した。 ESCC細胞株(TE10,TE11)においてsiRNA導入でFra-1をノックダウンし、遺伝子発現変化をマイクロアレイで網羅的に検索した。さらに遺伝情報学的手法であるBIOBASE upstream analysis(BIOBASE)で解析を加え、Fra-1制御遺伝子としてHMGA1(high mobility group protein AT-hook 1)を得た。 Fra-1抗体(Santa Cruz,sc-28310x)、次世代シーケンサー(illumina,MiSeq)を用いたChIP-seqにおいて、ChIPサンプルではHMGA1プロモーター領域をコードするDNA断片が多数シーケンスされたが有意差は認めなかった。ChIP-PCRではChIPサンプルにおいて、HMGA1プロモーター領域を含むprimer配列でPCRがかかることを確認し、PCR産物のアガロースゲル泳動でも同様の結果を得た。 TE10、TE11においてHMGA1発現をsiRNAでノックダウンし、増殖能、浸潤能、転移能のいずれもが抑制されることを確認した。 当科で術前未治療に手術されたESCC検体135例を用いた検討では、HMGA1高発現群の予後は有意に悪く(p=0.0017)、多変量解析においてHMGA1高発現が独立した予後不良因子であった。 Fra-1の制御遺伝子としてHMGA1を同定した。HMGA1発現はESCCの予後と深く関連し、ESCC治療に対する新たなターゲットとなり得ると考えた。
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