現代社会は高齢社会の進行に伴い、ロコモティブシンドローム(骨粗しょう症やサルコペニア(老化に伴う筋肉の萎縮)といった運動器の機能低下)が増加している。すでに骨粗しょう症の治療薬は開発が進んでいるが、サルコペニアの治療薬の開発が遅れている。サルコペニアでは、特に速筋の筋肉量が減少し、運動機能の低下から高齢者の転倒による骨折の原因となっている。そこで、本研究ではサルコペニアの治療・予防を目指した分子基盤の解明を目的として、骨から分泌され骨格筋(特に速筋)を増強させる作用を持つタンパク質の同定を試みた。実験では、骨芽細胞MC3T3-E1を骨分化誘導し、その培養上清をHPLCにより分離し、そのフラクションを分化させた骨格筋の培養細胞C2C12に添加し、C2C12細胞株への効果を解析した。筋管の直径には変化が見られなかったため、遺伝子発現の解析を行った。骨格筋のファイバータイプ、および、筋量を制御する遺伝子の発現量をQPCRにより定量したところ、分画中のあるフラクションの添加により用量依存的に速筋特異的な筋サルコメアを構成するタンパク質myosin heavy chain 4 (Myh4)の遺伝子発現量が増加することが明らかとなり、フラクション中に骨格筋のファイバータイプを制御するタンパク質が含まれることが示唆された。
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