固液界面でイオン液体は固体表面からの相互作用を強く受け、バルクとは異なった構造を示すことが報告されているが、バルクイオン液体に埋もれた界面の構造・物性を直接観察することは容易でない。そこで本研究課題では、申請者らが開発してきた赤外レーザ真空蒸着法によって、イオン液体を固体基板上に超薄膜化することで界面近傍のイオン液体をあらわにし、そのイオン伝導物性を調べることを目的とした。 あらかじめ櫛型金電極を蒸着したサファイア基板上で、イオン液体[emim][TFSA]を真空中で蒸発させることで、イオン液体の濡れ性の良い厚さ数nmの濡れ層を作製した。この上に、今回新たに製作したin situイオン伝導度測定-赤外レーザ蒸着チャンバーを用いて、イオン液体[emim][TFSA]及び[emim][PF6]をナノレベルで膜厚を制御しながら蒸着し、その膜厚と温度を変えながら交流2端子法でイオン伝導度を測定した。その結果、[emim][TFSA]の薄膜において、膜厚が10 nm以下の薄い領域で伝導度が膜厚とともに線形的に増加しバルク値に近づいた。これは、固体基板近傍のイオン液体が、バルクよりも粘度が高く動きにくい状態であることを示唆しており、これまで別の方法で調べられているバルク液体/固体界面のイオン液体の性質についての報告と矛盾しない。また、イオン液体[emim][PF6]において、成膜温度を変えて伝導度を測定した実験から、赤外レーザ真空蒸着法で蒸着されたイオン液体が、不均一な液滴状に付着した後、濡れ広がって均一膜を形成している可能性を示唆する結果を得ている。 以上の結果より、当初の研究目的であった、ナノレベルで膜厚制御された固体基板上のイオン液体超薄膜の物性を初めて明らかにしただけでなく、これまでよく分かっていなかったイオン液体薄膜の成長メカニズムに関する知見を得ることができた。
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