研究実績の概要 |
本年度では、修復象牙質形成過程におけるオステオポンチン(OPN)の役割を解明することを目的として、野生型マウスおよびOpn遺伝子欠損マウスを用いた窩洞形成実験系を利用し、組織学的解析を行った。野生型およびOpn遺伝子欠損マウスにおいて、術後1日では、窩洞直下の象牙芽細胞に変性像が認められ、ネスチン陽性反応が消失していたが、一方、髄床底側の象牙芽細胞はネスチン陽性反応を維持していた。術後3日には、新たに分化したと思われる象牙芽細胞がネスチン陽性を示し、歯髄・象牙質界面に配列していた。野生型マウスでは、窩洞直下の歯髄細胞にOpnを強く発現する細胞が認められ、石灰化前線にOPN陽性反応が認められた。術後14日では、髄角部に修復象牙質形成が、髄床底側に反応象牙質形成が認められ、新たに分化した象牙芽細胞にDspp, col1a1の発現、DSPP, Ⅰ型コラーゲン, インテグリンαvβ3陽性反応が認められた。一方、Opn遺伝子欠損マウスでは、術後14日において、髄角部で修復象牙質形成が阻害されており、新たに分化した象牙芽細胞に、Dspp, DSP, インテグリンαvβ3の発現が認められるものの、Ⅰ型コラーゲン、col1a1の発現が認められなかった。以上より、歯の窩洞形成後の歯髄治癒過程において、石灰化前線へのOPNの沈着が、新たに分化した象牙芽細胞様細胞のⅠ型コラーゲン形成、すなわち修復象牙質形成に必須の因子であることが明らかになった。歯髄再生療法の開発を目指す上で重要な科学的基盤となるのが歯髄の生物学的特性の理解であるが、上記の成果は歯の損傷後の修復象牙質形成機構の解明に大きく寄与するものである。
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