研究実績の概要 |
The Japan Exchange and Teaching Programによって, 多くの英語母語話者がAssistant Language Teacher (ALT)として日本に招致され, 公立学校では, ALTとJTE (日本人英語教師)によるティームティーチングの授業が可能となった。彼らの年齢や経験は多様であり, 来日後、深く学校教育に関わる者がいる一方で、周囲との関係構築が難しく短期間で帰国する者など様々である。日本での彼らのアイデンティティ構築には何が関わっているのか。本研究は, ALTの語りの分析を通し, アイデンティティ変容の様子を探求することを目的とする。 研究方法として, 公立中学校に勤めるALTにセミフォーマルなインタビュー及び記述インタビューを1年の間隔をあけて行い, データをテキスト化し, 社会文化的視点から質的に分析を行った。また, 生徒への記述インタビューも行った。 分析の結果, 来日後の早い時期, 新しい文脈への彼女の関わり方が関係していることが明らかになった。Norton(2000)は, 第二言語学習者のアイデンティティについて, 苦難や不安を抱えながらも新しい文化や言語を学ぼうとする姿を「investment (投資)」という概念で論じた。このALTは, 日本語を学ぶことで英語と日本語による生徒との意思疎通を図り始め, 授業外の学習にも寄り添い, その距離を縮めていった。それは生徒にも伝わり, 教室でのメンバーシップ獲得へと繋がった。また, 学校生活の中で, ALTへのJTEの関わり方も大きく作用することが明らかになった。教室内の参加者の関係が徐々に変化し, 彼女の立ち位置を再構築する契機となり, 不安や迷いから解放されていった。 日本の英語授業において, ALTたちの持つ可能性を最大限に発揮するためにも, 本研究が, ALTが日本の英語教育により深く関わっていく一つの足掛かりになることを望む。
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