本研究では、楽曲中に介在することばの音響効果や、指導者と学習者間のオノマトペの効果について整理し、音楽活動に特有な指導方法の開発を行った。 平成23年度~平成26年度用文部科学省検定教科用図書の初等音楽科教科書(3社)の楽曲中のオノマトペの出現状況は第1学年・第2学年・第4学年・第3学年・第5学年・第6学年の順で多く、教育目的別に整理した結果、楽曲中では歌詞内容の理解を深めるオノマトペや、音響そのものの美的効果を表すオノマトペが見られた他、楽曲外にもリズム感の体得やスキル伝達のためにオノマトペが用いられていることが分かった。一方、音楽スタンダートに美的価値領域の設定があるカリフォルニア州の教科書「Making Music」においては、幼少期においてもオノマトペの使用頻度が稀であり、オノマトペよりも歌詞中の単語に介在する韻に着目した作詞・作曲がなされていることがわかった。 言語学の先行研究により、各言語において音韻と意味には、つながりのあるものもあるが、例外も多数確認されており、ユニバーサルかつ普遍的な法則はないとされているため、音楽教育への適用は、音韻と意味のつながりを集約させる方向ではなく、多様かつ全体的知覚・感受へと導いたり、留学生への日本語指導方法に用いられているSGAV方式のように、言語外要素を想起させたり、音声と身体の運動との相互関係を指導に活用したりすることが望ましいという示唆が得られた。 これを踏まえて、オノマトペを歌詞に含む楽曲の歌い方の工夫をさせた授業を広島市内小学校で実施した結果、児童のワークシートにオノマトペの音声単位で「重たく」「高く響かせて」などの記述が見られ、オノマトペに着目させることが状況想起を促し、音声としての歌唱表現の工夫につながる題材開発の1提案を行うことができた。
|