研究実績の概要 |
「進化」は, 生物学全体を理解するためには不可欠の概念であるが, 他の単元に比べ指導が困難で, 教材の不足が指摘されており, また「進化」に関する多くのミス・コンセプションも報告されている. そこで, 近年の技術の進歩に伴い教育現場にも普及しつつある3Dプリンターを利用し, 学習者が自ら手に取り比較することができる人類頭骨(パラントロプス・ボイセイ, ホモ・エレクトス, ホモ・サピエンス)のミニレプリカ(3Dレプリカ教材)を作成した. まず, 教材が3Dであることのメリットを明らかにするために, 高校1年生113名を3Dレプリカ教材の使用グループと, 従来使用されている教科書の図(2D教材)の使用グループに分け, 人類の進化の過程で特徴的変化する「眼窩上隆起」「あごの形」「大後頭孔の位置」について学習させた後, 教材の「分かりやすさ」を生徒がどう感じたかを比較調査した. その結果, 2Dレプリカ教材の有用性が示唆された一方で, 授業で3Dレプリカ教材を導入する上での留意点も明らかになった. 続いてミス・コンセプションとして報告されているラマルク的な進化観の修正を目的とし授業を実施した. 授業は東京都内の高等学校(私立2校・公立1校)の3年生計66名対象に実施, 作成した人類頭骨(アウストラロピテクス・アファレンシス, パラントロプス・ボイセイ, ホモ・エレクトス, ホモ・サピエンス)と類人猿(ゴリラ)のミニレプリカ教材を活用した授業を展開, 事前・事後アンケートによりその効果を測定した. 測定の結果, ミニレプリカを用いた今回の授業が, ミス・コンセプションとしてこれまで報告されてきたラマルク的な進化観の問題点の理解を促す効果があることが示唆された. また, ミニレプリカの比較する学習活動を通して, 頭骨の各部位の特徴を認識できるようになるだけではなく, 構造と機能の関係を理解し, 生徒自らが新たな問いを生成していたことから, 探究的な活動のツールとしても活用が期待される.
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